ロイヤルスタイルとの出合い
子供の頃に習っていたバレエを20歳で再開した時に入った教室が、ロイヤルメソッド(RAD)で、先生はRADの教師免許を持った方でした。
この時に初めてロイヤルスタイルというものを知り、それは衝撃でした。
それまではバレエといえばロシアが一番、と思っていました。
私は3歳から3年ほどロシアで暮らしていたことがあり、両親がロシアでバレエ鑑賞をしていたことがきっかけで帰国後、私を近所のバレエ教室に入れたことでバレエを習うことになりました。この教室は完全にロシアスタイル。
誰もが知っている『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』などのクラシック作品は、ロシア人ダンサーの生まれながらに持った長い手足、小さい顔、柔軟性、スレンダーな体で踊るのが当然であり、だから美しいのだ…そう思っていました。
ところがロイヤルスタイルは全然違います。
20歳から習った先生はいつも
「ロイヤルスタイルなら手足の短い人でも踊れる」
「日本人は体の条件が悪いんだから、ロイヤルスタイルで踊らないとダメ」
「そんなロシアみたいな手の使い方しないで!」
と言い、ロシアバレエの踊り方を全く認めず、徹底的にロイヤルスタイルを習得させようとなさる方でした。
確かに、英国ロイヤルバレエ団のダンサーを見ていると、あまり体型は揃っていないし、ダンサーとして恵まれていない体型の人がプリンシパルだったりもします。
近年は日本人もたくさん入団していて、それが可能なのは身体的なデメリットをカバーできるだけの踊り方がきちんと身に付いているから、ということなんですね。
私は90年代からロイヤルバレエ団の公演を頻繁に観るようになりました。
この頃、吉田都さん、熊川哲也さんがプリンシパルで、他にはヴィヴィアナ・デュランテ、ダーシー・バッセル、ジョナサン・コープなどが活躍していた時代でした。
シルヴィ・ギエムがパリオペラ座から移籍してきた時は、結構大きな話題になっていましたね。
2001年1月、ロンドンのロイヤルオペラハウスで『くるみ』を観る機会があり、その時の金平糖の精は吉田都さんでした。
この頃までの10年間、ロイヤルの日本公演はほぼ観に行っていたと思います。
教室でロイヤルスタイルの体の使い方を学び、お手本として生の舞台を観る、というのが習慣になっていました。
ロイヤルバレエ団で『眠り』を観る醍醐味
ロイヤルのダンサーを観るには、『眠り』だと思っています。
『くるみ』も良いですが、『眠り』のように個性的なキャラクターがたくさん登場する演目のほうがいろいろなダンサーを見ることができる楽しみがあります。
それに、ロイヤルの『眠り』は、純クラシック作品でかなり厳格に踊り方が決められているので、いかにロイヤルの伝統を承継できているダンサーか、を見極めることもできますね。
ロイヤルの『眠り』は、ライブビューイングやテレビ放送もよくされるようになってきたこともあり、30年間見守り続けてきました。
コールドだったダンサーが、次に観たときに妖精の役がついて、そのうちリラの精をやっていたりするのを見ると、「頑張ってるなあ、出世したなぁ」と感慨深くなります。
まだあまり主要な役をもらえていなくても「あ、このダンサーいいもの持ってるな。そのうち大きな役が付くといいな」と思っていると、次に大役を演じていたりして、嬉しくなったりします。
先日、テレビで2020年1月収録の『眠り』を鑑賞しました。
オーロラは金子扶生さん。
日本ではなかなかクラシック作品の主役で観る機会がなく、早くプリンシパルになってくれないかなと個人的には期待をかけているダンサーです。
オーロラを本当に丁寧に踊られていて、清々しさを感じる舞台でした。
忘れられないデュランテのオーロラ
時代とともに、なかなかロイヤルスタイルを厳密に体現できるダンサーは少なくなっているように思います。
アラベスクの足の上げ方、下げ方を見るだけで、ロイヤルスタイルはすぐに分かりますね。
沢山のオーロラを見てきましたが、一番を選ぶとしたら、デュランテです(DVDになっています)。
ローズアダジオが秀逸ですね。腰が天井から紐で吊り上げられてるかと思うくらい高く上がっていて、床の上を滑るような重力を感じさせない踊りです。
ロイヤルを退団してから今はほとんど見かける機会がなくなってしまったのが残念ですね。
それにしても、王妃役のエリザベス・マクゴリアン、この役を何十年演じ続けているのか分かりませんが、いつ見ても変わらない存在感が素晴らしいです。
ロイヤルバレエの『眠り』は、これからもまだまだ見守り続けていくつもりです。